今回は、特化型CtoCシェアリングサービスのTotteを見てみたいと思います。
サービス概要について
Totteは、撮影機材がシェア利用できるアプリ。
プロ用のカメラを中心に、レンズ、照明、アクションカメラ、ドローンなど、Totteでは様々な撮影機材の貸し借りが可能です。
Totte(https://totte.fun)より
とのことです。
基本的に一眼レフ用の交換レンズとか、フルサイズのカメラとかって単価が高いんですよ。
カメラ本体は平気で30万とかしますし、レンズも一本で10万とか平気で超えてきます。
そんなのを試すでもなくいきなり買うのもなかなか勇気が要るし、気軽にお試しができると有り難いです。
一方、そんな高級カメラやレンズを持っていても、なかなか毎日使うものではありません。
中には、最初だけ使ったけれど、あとは防湿庫に眠りっぱなし、なんてこともあります。
その辺のニーズを上手くマッチングして、
・借り手:気軽に安価にカメラ機材を試せる・ちょい利用ができる
・貸し手:眠っている機材でお小遣いが稼げる
というメリットを提示し、CtoCのレンタルシェアとしています。
図解してみる

図解するとこんな感じ。
(※図解は、ビジネスモデル2.0図鑑でお馴染みのチャーリーさん(@tetsurokondoh)が配布してくださっている「ビジネスモデル図解ツールキット」を使用させていただいております。)
何が難しいか
CtoCでレンタルシェアって言うと、まず思いつくのはAirbnbです。
Airbnbは不動産のシェアリングで、こちらも持っているけれど使っていない部屋を貸したい人と、安価に泊まりたい借りたい人をマッチングするもの。
シェアエコノミーの雄ですね。
じゃあTotteはエアビーのカメラ版だ!
と整理できれば簡単なのですが、意外とそうもいきません。
問題は2点。
配送コスト
1点目は配送です。
不動産の場合は利用者がそこに行かないと始まらないので配送は考えなくていいのですが、動産の場合は話が違います。
基本的に「行って利用する」ものではないので、どうしても配送コストがかかってしまう。
動産でCtoCだとメルカリがありますが、あちらは売買なので配送コストは1回しかかかりません。
レンタルはどうしても貸し/借りの2回、配送コストが発生してしまうので、料金の調整が難しくなってしまいます。
補償
2点目は補償です。
カメラのように外に持ち運ぶモノは、それだけ故障のリスクに晒されます。
CtoC × レンタルで肝になるのは
“いかに貸し手を集められるか“
です。
いくら借り手が集まっても、貸す物がないんじゃ話になりません。
そこで貸し手を集めようと思っても、貸し手からすれば、いくら普段使っていないからと言っても大金をはたいて買った機材を壊されてはたまりませんよね。
したがって、補償制度が充実していないと貸し手を集めるのは難しくなります。
とはいえ、あまりに補償を厚くしすぎても、今度はコストばかり嵩んでしまって収支が合わなくなるので、バランシングが難しいところ
動産のシェアリングサービスで近いのはAnycaでしょうか。
こちらは車のCtoCシェアです。
車も事故に遭う確率はゼロではないので、それなりの補償を用意しておく必要があります。
Anycaの場合は東京海上日動と組んで1日自動車保険を提供していますね。
自動車はだいたい故障率や損害額のデータが取れていると思うのでコスト計算は比較的やりやすい分野だと思います。
これに対してTotteはカメラ機材のレンタル…となると、どこの保険会社と組むのか、組むとしてどれくらいの故障率なのか、損害額の分布はどうなるのか…
などなど、色々詰める必要のある箇所が出てきますね。
Totteのソリューション
Totteは上記問題をどのように解決しているのでしょうか。
配送ではなく手渡しに
配送が挟まるだけで考えないといけないことがアホみたいに増えるので、Totteでは原則として直接手渡しで利用するよう設計しているみたいです。
この辺は考えると沼なので、サービス提供を第一に考えた判断だと思います。
直接ユーザー間で手にとってキズ等を確認できるので、トラブル数も減りますし。
そうしたときの問題としては、借り手が借りたいと思った時に近くに希望する機材の貸し手が居るか、という点。これはユーザー数を増やすしか方法はありませんので、広告戦略の話になりますかね。
(Twitterなど見てみると配送も選べるようになっているのかな?Androidしか持っていないのでアプリダウンロードできず、わかりません…後述の保険適用を受けるには直接手渡しじゃないとダメ、というのが公式ページの利用規約には書いてあるので、あくまで手渡しを想定しているのだと思います。)
補償はしっかり提供。なんと上限200万円まで。
補償の点はしっかりしています。
どうやら保険会社と組んでオリジナルの保険を提供しているみたいです。
上限は800円/日の保険料に対して200万円ですね。
この辺のデータをどうやって取っているのか非常に興味があります。BtoCのレンタル業はなら運営しているところがいくつかあるので、その辺から持って来ているのでしょうか。
補償については次項でもう少し見ることにします。
法律面を整理してみる
さて、それでは、気になる点について法律面から見てみようと思います。
契約形態の確認
まずは<貸し手─CREARC─借り手>でどのような契約形態になっているかです。
ユーザー間でのレンタル契約は、賃貸借契約に引きつけて考えれば良いので楽ですが、利用料の移動スキームが問題です。
何が問題かと言うと、立て付け次第によっては、資金決済法上の資金移動業者としてライセンスを受けなければならない可能性があります。
資金移動業者というのは、為替取引を扱う者のことを指します。
じゃあ為替取引ってなんなの?といいますと、
顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行すること
平成13年3月12日最高裁第三小法廷決定
これじゃなんのこっちゃわかりませんが、日常概念として理解しやすいのは送金サービスです。
送金サービスをやるには、資金移動業者として登録をする必要があり、お金をたくさん用意しないといけないし細かい要件クリアしないといけないしで何かと面倒です。
これに対して、収納代行というスキームを使うと、この規制を回避できます。
収納代行というのは、よくコンビニなどで公共料金やECサイトでの買い物の料金を支払えるアレです。
何か契約が発生してそれを原因としてお金を支払う必要が生じた場合に、「受取人の代わりにお金を受け取って」「支払人から受け取ったお金を受取人に渡す」のが収納代行です。
この2つを図にすると以下のようになります。


上が為替取引で、下が収納代行です。
図を見れば一目瞭然ですが、収納代行の方が複雑になっています。
法律の規制を回避するためなので、しょうがないです。
為替取引というのは原因が何かという点には着目しません。
例えば取引先の銀行口座に契約金を振り込む時に、「契約金として」なんてことは銀行に伝えませんし、銀行はとにかく受け取ったお金を指定先の口座に振替えることだけしかやりません。
これが純粋な送金サービスで、資金移動業者としての登録を受けないとできません。
これに対して収納代行は、AさんとBさんの間に「原因契約」があるのに注目してほしいのです。
そこから生まれたお金の支払いを、会社が代行する形で行うのが収納代行のスキーム。
「うちのサービス利用するためにお金の移動が必要になったからそれもついでに会社が代行しますよ」
という立て付けをすることにより、資金移動業者じゃなくてもお金の移動を扱えるようになるという寸法です。
Totte以外にも、数多くのサービスがこのスキームを利用してサービスを設計していますね。
補償の話
補償は先ほども少し触れましたが、法律面からもう少し深掘ってみたいと思います。
保険で一番馴染みがあるのは生命保険とか傷害保険、入院保険あたりでしょうか。
こういうのは基本的に、保険に申し込んだ被保険者に何かあったときに保険金が下りるというやつです。
自分が他人に怪我を負わせてしまった、という場合の保険で一般的に入っている人が多いのは自動車賠償責任保険ですね。
これは自動車の運転中に歩行者をはねてしまって…などの場合に使えます。
じゃあ、「空き地でキャッチボールしてたら隣の家の窓ガラス割っちゃった」というケースで保険が効く場合はあるのかというと、「個人賠償責任保険」というのがあります。
一般的には損害保険の特約としてつけることが多いかと思います。
で、他の人から預かっている物を壊してしまったときもコレでいけるのかと思いきや、その場合はまた別の保険が必要です。
それが「受託品賠償責任保険」というやつになります。
受託品=誰かから預かっている物について損害が生じた場合に使える保険です。
Totteで加入する保険はコレになります。
受託品賠償責任保険は倉庫業とか手荷物預かりとかをやっている業者が入るのが普通で、一般個人向けに単体で売っているのはほとんど無いんじゃないでしょうか?
ニーズが無かったといえばその通りなのですが、CtoCレンタルならこの保険は必須だと思うので、立て付けできたのが凄いなーと感じました。
今後のサービス展開を妄想してみる
ここまで見てくるとCtoCレンタルシェアのための土台はしっかりありますよね。
あと、対象が「カメラ機材のみ」というところも上手いなぁと。
あまり安い物(2,3万程度)を貸し借りしても事故率上がりそうだし、 PCとかスマホになると中に入ってる個人情報の取扱いとか七面倒くさい。
プロ向けのカメラ機材を使ってみたいという人は元々機材の扱いも丁寧な場合が多いと思うので、CtoCレンタルとは相性が良いジャンルです。
それと配送をTotteのサービスフローから完全に除いているのが清いと思いました。
将来的には代行配送も考えないといけないでしょうが、Anycaが結構成功しているのを見ると案外手渡しの方がコミュニティを作りやすいのかもしれません。
あとはとにかく、いかに貸し手を集められるかですねー。借り手は探せばいくらでもいると思うので。
これから交換レンズ式カメラはどんどんハイエンド化が進んで、いわゆるエントリーモデルは姿を消すと予想している(エントリーモデルを買うような層はいよいよ「スマホでいいや」となりそう)ので、こういうCtoCレンタルが盛り上がるのは一個人として嬉しいです。
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