6月11日追記:
金融庁の金融制度スタディグループ、本日、報告書のとりまとめに向けた議論が行われました。記事にもなっていた収納代行部分については、実態と課題認識を踏まえた適切な記載が提示されました。ご調整いただいた自民党の先生方、金融庁の皆様、ありがとうございました。https://t.co/4tEtiJ8PFW pic.twitter.com/RIroVZOsqN
— Noriaki Yoshikawa (@yoshikawanori) June 10, 2019
というわけで、ひとまず収納代行スキームの全面規制という方向性ではなく、しっかり議論していきましょうということが明記されました。
従いまして、以下の内容は収納代行スキームの活用法や問題点、その解決策についての試論としてお読みいただければ幸甚です。
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最近、収納代行スキームが資金移動業と同等の規制を受けて、日本のCtoCに大打撃を与えるのではないかと話題です。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/060700426/
記事では、現在進行中の金融制度スタディグループが出した報告(案)の一部を抜粋し、新興企業が敏感に反応していると紹介しています。
抜粋部分を改めて引用します。
債権者が一般消費者である場合については、一般消費者が『収納代行』業者の信用リスクを負担することとなる。そのため、こうした『収納代行』については、利用者保護等の観点から、資金移動業として規制の対象とすることが適当であると考えられる
『決済』法制及び金融サービス仲介法制に係る制度整備についての報告(案)15頁
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/seido-sg/siryou/20190529/houkoku.pdf
収納代行というと、私たちがよく利用するコンビニでの公共料金支払い等で馴染みがあるのではないでしょうか。
それとCtoCサービスにどう関係があって、なにがヤバいという話なの?という点について、いまいち具体的に想像がつかない方もいらっしゃるかと思います。
記事に書かれているような趣旨で報告書が出た場合、たしかに日本のシェアエコは死ぬ(いまあるCtoCサービスが軒並み続行不能になり、新しいサービスも生まれない)かもしれません。
その報告書がまとめられるのが6月10日(明日!)ということで、今日は内容を変更して、上記報告(案)をベースに、収納代行スキームに対する規制のあり方について深掘りしてみたいと思います。
そもそも「収納代行スキーム」ってなんぞ?
まずは、収納代行スキーム自体をざっくり理解するところから入りましょう。
でないと、記事の内容やそれに関する反応を理解することも難しいので…。
図示してみる
収納代行スキームを簡単に図示すると以下のようになります。

買い主と売り主がアプリ上でモノの売り買いをするサービスを例にしてみました。
①買い主と売り主がアプリ上で売買契約をする
→買い主は売り主にお金を支払う義務を負う(=代金支払債務)
ただ、買い主は売り主の口座情報等を知らないので、
②買い主がアプリを提供するスタートアップにお金を預け、
③スタートアップは預かったお金を売り主に渡す
これが「収納代行スキーム」の中身です。
なんで収納代行「スキーム」なんて呼ばれてるの?
これがなぜ収納代行スキームと呼ばれるかというと、この仕組み自体が法規制を回避するために用いられているからです。
その法規制というのが、資金移動業に対する規制(資金決済法)です。
資金移動業と収納代行スキームの違い
上図におけるスタートアップは、買い主からお金を預かり、それを売り主に渡しています。
ここだけみると、銀行の送金業と同じことをしていますよね。
でも、送金業務は銀行業としての登録を受けないとできません。
それだと困るので、1回の送金額が100万円以下なら「資金移動業」の登録を受ければやってもいいよ、という規制緩和がありました。
しかしながら、資金移動業者としてサービス運営するには、お金をしっかり持っていて、送金をちゃんと行える体制づくりをして厳しい審査を経て許可をもらわなければなりません。
しかも、運営上も、途中送金資金の100%以上の額を確保・供託しなければならない等の厳しいハードルが課せられます。
特に、サービス開始初期のスタートアップにとっては、そのよな体制づくりをするあらゆるコストが足りません。
なので、どうにかして規制を回避して、サービスを柔軟に展開したいという需要が生まれます。
そこで用いられるのが「収納代行スキーム」というわけ。
収納代行スキームは、「主サービスの提供に付随してお金を預かり/送っているだけですので資金移動業じゃありませんの」という建前をとります。
資金移動業における送金は、何が原因で送金をしているかは関係ありません。
これに対して収納代行スキームの場合、上図にならえば、「売り主と買い主がオンライン上で売り買いの契約を結べる」という主サービスを提供しており、そこで結ばれる契約によって発生したお金の支払いを、ついでに代行しているだけと捉えることになります。
こうすることで、規制を回避することができるわけです。
なんだかちょっぴり不思議な感じですが、「収納代行スキームをとれば、資金移動業の規制を回避して柔軟にサービス展開をすることができる」というポイントを押さえてください。
報告(案)の中身を見てみる
では、報告(案)の中身を見ていきましょう。
記事になっている内容は、大枠として
「収納代行スキームも結局は”送金”をやってるよね。だったら資金移動業と同様に規制しないとだめだよね。」
です。
その根拠を探ってみます。
根拠について図示してみる

スタートアップというのは、往々にして資金集めに苦労します。
そりゃサービス開始当初からどっさりお金があるほうがおかしいですよね。
なので、資金力が充分ではありません。
すると、買い主がスタートアップに対してお金を支払ったとしても、スタートアップの資金繰りがうまくいかない等で、売り主にちゃんとお金が払われない事象が考えられないではありません。
売り主としては、「本当にちゃんとお金が支払われるのかな?」という不安を抱えることになります。
そこから連鎖して、買い主も「本当にちゃんとスタートアップが売り主に支払ってくれるかな?後になって売り主から直接代金請求されないかな?」といった不安(これを”二重払いの危険”という)を抱えることにもなります。
このように、収納代行スキームを採用すると利用者(売り主・買い主)にとって不利益をもたらす危険があり不健全な状態であるため、利用者保護のため規制すべきだという話になっているのです。
この「利用者保護のため」規制するんだという趣旨は資金移動業の規制と収納代行スキームの関係を考えるときのキーポイントのひとつです。
記事になっていないもう一つの”収納代行”
実は、報告(案)には、現状維持すべきであるとするもう一つの”収納代行”形態があります。
それが、コンビニ等での公共料金支払いなど、私たちに馴染みのあるいわゆる収納代行です。
図示してみる

コンビニの収納代行も、図示すると構造的には「収納代行スキーム」のそれとほぼ同じです。
違うのは、お金を払う相手方が事業者である点と、買い主がコンビニにお金を払った時点(②)で、買い主の売り主に対する代金支払債務が消滅する(=③)という点です。
後者については、二重払いの危険がないという点で買い主保護にはたらきます。
前者については自信がないのですが、売り主が個人でなく事業者なので、仮にコンビニがお金を支払ってくれなくても個人に比べて影響が小さい、または、コンビニと売り主の間で代金支払いについての契約が別個にあるためリスクが小さいなどの点において、利用者保護の趣旨から外れると見ることができます。
で、このような収納代行については、現状維持で足りると提言がされていました。
例えば、大手コンビニエンス・ストアによる収納代行や、大手運送業者による代金引換など……(中略)……のような、利用者保護の観点から適切な対応が図られているといえる「収納代行」については、これまでと同様の扱いとすることが適当であると考えられる。
『決済』法制及び金融サービス仲介法制に係る制度整備についての報告(案)14〜15頁
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/seido-sg/siryou/20190529/houkoku.pdf
これこそ、規制を受けたらパニックですからね…
この内容単体は誰もが納得する部分でしょう。
“現状維持”に引き付ける収納代行スキーム
今までの図示を見てもらうとわかると思うのですが、どれもだいたい同じ構造になっているのに気づきましたでしょうか。
ということは逆に考えると、報告(案)で”現状維持”とされている収納代行に、収納代行スキームを寄せていく方法が考えられます。
これを図示してみましょう。
図示してみる

これはサービスの利用規約で「代金支払債務は②の代金支払いがあった時点で消滅する」ことに同意することを明記して、コンビニ等の収納代行と同じように買い主の二重払いの危険をなくす方法です。
すでにこうした規約を明記してサービス運営しているところも多くあります。
ただし、売り主の「ちゃんと払ってくれるの?」という不安は依然として残ることになります。
これに対する手当もいくつか考えられますが、本質的な問題は「スタートアップの資金力が充分でない」ことにあるので、どうしても限界があるところです。
あり得る規制はひとつじゃない
ここまで見てくると、今のように収納代行スキームが規制回避手段として常態化しているのに対して、一定の歯止めをかけなければならないという視点も理解できます。
すると、次に出てくるのは「規制するとして、どの程度の規制をかけるべきか」という規制の内容面の話です。
これも簡単にですが図示してみます。

大枠としては、①資金移動業と同等の規制と③現状維持が両端にあって、その間に②資金移動業よりも緩やかな規制が様々なレベルであるイメージです。
しかし、これでは収納代行スキームに対して一律に同じ規制をするという前提で話が進んでしまいます。
規制をもう少しきめ細やかに考えてみる
そこで考えられるのが、横軸の要素を入れた規制です。
ここでの横軸には「スタートアップのステージ」を置いてみました。

今まで見てきた中で、収納代行スキームでは売主側の不安を払拭しきれないという問題が残りました。
その本質は「スタートアップの資金面の不安」です。
その資金面は、スタートアップがステージを上がっていくに連れて増えていき、そこから生じる不安も段階的に解消されていくものと考えられます。
そこで、サービス開始間もないシード〜アーリーのスタートアップには、サービスをひとまず始めてもらうために緩やかな規制を適用し、成長するに従って規制度合いを上げていって、IPO時には資金移動業と同等の規制をかける、という段階的規制をとります。
デメリットとしてなにがシードでどうなったらアーリーで…という各段階の認定・運用が面倒という点が挙げられますが、日本のシェアエコを保護し、その健全な発展を促すならひとつの方法としてとり得ると考えています。
段階的規制の思想は、水野先生も挙げられているところです。
すでに一定の資本と体制があるCtoCサービスも、かつては収納代行スキームに頼ってきたわけです。段階、規模に応じて資金移動業に移行する仕組みが望ましいと思います。この基準時が現時点では暗黙にIPO前後ということになっていますが(メリカリはなぜか前払式支払手段でしたが苦笑)、曖昧ですよね。
— 水野 祐 Tasuku Mizuno ? (@TasukuMizuno) 2019年6月9日
日本のシェアエコの未来をどうか壊さないでほしい
冒頭に挙げた記事に対する反応や規制の内容に関する意見は様々あるかと思います。
しかし、一律に資金移動業に対する規制を収納代行スキームにかけるのは反対ですし、少なくともこの一点に関しては多くのご理解をいただけるポイントだと思慮します。
そして、日本のシェアリングエコノミーの未来を守りたいという思想の根っこの部分は、検討チームの皆さまも同じであると信じます。
報告書まとめは明日ですが、本記事が少しでも誰かの参考になり、日本のシェアエコの未来に役立てば幸甚です。
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