今回は海外のサービスを紹介します。
個人的に日本でもやって欲しいと思った、「Anyplace」というサービスです。
サービス概要について
イメージ優先でざっくり説明すると、Anyplaceは中長期滞在型のAirbnbみたいなサービスです。
日本人がアメリカで創業して資金調達したことで話題にもなっています。
https://jp.techcrunch.com/2019/06/04/2019-06-03-anyplace-seed-funding/
借り手は、1ヶ月単位で ホテルや家具付きのアパートに住むことができます。
貸し手は、予約の埋まっていないホテルの空き部屋や所有不動産の空き物件を1ヶ月単位で貸し出すことで、機会損失を減らすことができます。
図解してみる
図解するとこんな感じ。

(※図解は、ビジネスモデル2.0図鑑でお馴染みのチャーリーさん(@tetsurokondoh)が配布してくださっている「ビジネスモデル図解ツールキット」を使用させていただいております。)
中長期滞在のメリットは?
物件シェアリングという点では、Airbnbとほぼ同じです。
「だったらAirbnbで長期間契約すれば良いじゃない?」とも思えます。
が、そこは1ヶ月単位貸し出しということで、普通に借りるよりもディスカウントが効いているのがAnyplaceのポイントです。
具体的にはホテルの部屋だと、普通に借りるよりもAnyplaceで借りたほうが1日単位で3割~5割程度安くなるということ。
しかも、普通の賃貸とは違い、最初から家具やインターネット環境は整ってるし、賃料には光熱費のほか、週1程度で行われるハウスキーピングの代金まで含まれています。
貸主の安心をしっかり保障
サービス設計が全体として貸主をしっかり保護するような方向でされていますね。
取っている施策は大きく2つで、借主の信用調査をする(クレヒスの調査等をするみたいです)ことと、借主が立ち退かないときに備えたバックアップ体制の確保です。
Airbnbよりも大きなお金が動くので、貸主の「借主はちゃんとした人かな?」という不安は相対的に大きいです。
そこをカバーするため、借主がサービスに登録したときに信用調査を行うこととしています。
(ちなみに初期審査料として$40かかるみたいですが、今はキャンペーン中で無料とのこと。)
それから、立ち退きの日に借主がちゃんと出ていってくれるのかも不安要素です。
あとに予約が控えているのに出ていってくれないとなったら色々面倒…
ここも万が一のときにはAnyplaceが対応してくれます。
賃貸の面倒をとにかく省く
物件を借りるのって改めて見ると結構面倒で、そこそこ時間が喰われます。
物件を借りるまでのフローをざっくり考えると、不動産屋さんに行って物件を探して内覧、入居審査の申込書を書いて審査を経たあと、各契約書類にサインをして契約金を振込み、書類を不動産屋に持参して契約、です。
これらが全部アプリ上で完結するんですから楽すぎます。(内覧は希望すればアレンジしてくれるそう。)
特に、契約関係の手続きをオンラインで済ませることができるのが強力だと思いました。
それから、引っ越しするときには、業者手配して家具運んで、入居したらインフラ整備のために色々手配して、足りない家具や小物も揃えて……とやらなければいけないこと山積みです。
Anyplaceなら家具備え付けだしインフラの料金もコミコミなので、手ぶらで引っ越しができて入居後にやることも無い。
いいですよね。。。
法律面を整理してみる
とはいえ、アメリカの一部地域で利用できるサービスで、日本にはまだ来ていません。
日本でもできんの?というところを法律面から整理してみようと思います。
前提として、Anyplaceはプラットフォームを提供しているだけなので、以下で検討していくのはもっぱら貸主と借主の契約関係についてです。
1ヶ月単位の賃貸借契約は有効に結べるか?
何よりもまずは、貸主と借主が1ヶ月単位の賃貸借契約を有効に結べるかが問題です。
「え、別に普通にできるんじゃないの?」と思えますが、借地借家法の規制があります。
普通に賃貸借契約を締結しようとすると、1年未満の期間を定めた契約は無期限の契約となり(借地借家法29条)、仮に有効な期間の定めが存在しその期限が到来しても、「正当事由」がないと契約が更新されます(同28条、26条)。
(このような形態の賃貸借契約を「普通借家契約」といいます。)
要は、Anyplaceを普通借家契約で実現するのは無理という話です。
そこで活用できるのが「定期借家契約」です。
「更新がなく、期間の満了により終了する」ことを契約書とは別に予め書面で説明し、書面で契約を締結すれば1年未満の期間を定めた契約も有効に成立させることができます(同38条1~3項)。
書面の”交付”は必須か?
ここでさらに問題になるのは、定期借家契約に書面(契約更新がないことの書面と契約書の2つ)が必要であるという点です。
Anyplaceは契約関係の手続きが全てオンラインで済むので、書面を受け取ってサインをしてそれをまた郵送して…というフローはありません(たぶん)。
契約当事者が「定期借家である」と認識していても、書面交付=紙媒体での契約書を提供することは成立要件と解されている(最高裁平成24年9月13日判決)のでオンラインで完結というのは微妙なところです。
ただ、マンスリーマンション契約のプラットフォームであるKaguAruooがオンライン完結のサービスを提供しているのを見ると、契約書をオンラインでしっかり保管しておくシステムづくりなど設計をちゃんとやればOKな感じもしますね(この辺は判例リサーチ継続します…)。
ホテルが空き部屋を貸し出す場合は長期宿泊で
また、Anyplaceが当初からやっているホテルの空き部屋を長期滞在のために貸し出すのは、旅館業法にのっとり、宿泊が長期間なだけと整理してやれば特段問題はないと考えられます。
日本でのサービス展開を妄想してみる
Anyplaceには貸主にBとCが混在しているので、そこを切り分けて考えてみたいと思います。
BtoC=ホテル事業者がホテルの空き部屋を貸し出し
ホテルの長期滞在プランは、すでに各ホテルが独自に提供しているところも多いです。
しかし、電話予約が必須だったり、ホームページ上に記載がなかったりと、利便性は高くありません。
ここをプラットフォーマーとして取りに行くことは考えられますが、そもそも(貸手・借手双方に)需要があるのかという問題は検討すべきところ。
借手
まず借手ですが、BtoCのマンスリーマンション事業は幅広く行われており、手ぶらで引っ越しの需要は間違いなくあるでしょう。
さらに借り手の属性として単身赴任や長期出張のビジネスマンを想定すると、基本的に駅チカであるホテルの立地は普通のマンスリーマンションよりプラスに働きそうです。
しかもハウスキーピングもあるので、手間が省けてハッピーです。
貸手
一方、貸手であるホテル事業者には、そこまで強い需要はないかもしれません。
基本的に、都市部のホテルは平日だと空室に余裕がありますが、土日になると空き部屋が少なくなります。
満室で予約できなくなることもままありますね。
そうすると、平日の空室を埋めるためにディスカウントをして長期滞在のパッケージで販売しても、ホテル側からすると大した利益にはならない可能性があるわけです。
ざっくりした計算ですが、ディスカウント率を稼働率と考えればパッケージで売るべきかがわかります。
Anyplaceの相場であるディスカウント率3割でいくと、ホテルのある部屋の稼働率が7割未満であれば、パッケージ販売を考えても良いことになりますね。
観光庁の宿泊旅行統計調査によれば、東京都のビジネスホテルは稼働率が84.8%、全国平均で見ても7割を優に超えています。
ということは、ホテル事業者にとっては長期滞在をパッケージ販売する動機が薄いことになります。
CtoC=民泊オーナーの裏作として長期滞在をパッケージ化
CtoCの場合は、Airbnbで民泊を提供している物件オーナーが裏作として定期借家契約を利用することが考えられます。
どういうことかと言うと、民泊は住宅宿泊事業法によって原則として「年間営業日数180日」という上限が設定されているんですね。
残りの185日は民泊を実施できないので、どうにかして収入を得たいという需要があります。
そこで、物件活用の”裏作”として、宿泊業態ではなく、物件そのものを定期借家契約で貸し出すスキームを利用することが考えられます。
実は、このようなニーズをすくい取っているのが、先ほどチラっと紹介したKaguAruooです。
普通の賃貸より少し割高に見えますが、こちらも家具付き物件で光熱費等コミコミの値段なので、トータルで考えると手間もなく安いという仕組み。
ただ、Airbnbが定期借家契約に対応してきたらどうなるのか、という関心はあります。
また、マンスリーマンションとの差別化が少し難しいかもしれません。
大きく分けると、値段で勝負するか、プレミアムな滞在体験を提供するかの2択です。
ここはだいたいAirbnbの施策があてはまる感じがしています。
“住みたい場所に住む自由”を手に入れることはできるのか
Anyplaceの“住みたい場所に住む自由”というコンセプトはすごく好きです。
(自分が法律系の人間だから「○○する自由」というフレーズがより響くのかもしれない)
ただ、日本での展開を考えると、特にホテル関係ではビジネス的に難しい点があります。
これに対して、KaguAruooは180日ルールに上手く乗っかってCtoC需要に応えるサービスとして設計されており、広がりが期待できそう。
あとは借手が、引っ越しの手間をどこまで「手間」と認識しているかによりますね。。。
個人的な話ですが、司法試験に受かっていた場合には1年間日本のどこかで研修をすることになるので、ホテルと賃貸の中間領域であるこの手のサービスはとても相性が良いと感じています。
その辺、受験生仲間の意識調査とかしてみたいところです。
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