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トリトンの矛 漁師の「勘」をAIで見える化し漁場を予測する

サービス
オーシャンソリューションテクノロジー株式会社 公式HPより

今日ご紹介するサービスは「トリトンの矛」です。

なんだか名前がスゴいですが、中身も名前に負けてません。

オーシャンソリューションテクノロジー株式会社
私たち、オーシャンソリューションテクノロジーは、この国に根付く産業の歴史に最大限の敬意を払いながら、その新しい未来を見据えた技術を通して、社会へ幸せを提供していく企業です。

サービス概要について

トリトンの矛は、 漁師の「勘」をデータにして、若手漁師への技術伝承をやりやすくするサービスです。

漁業の漁獲量は、漁師さんの技術はもちろん、温度、風、月の満ち欠け、海流、生態系のバランスなどなど様々な要因によって左右されます。

漁師さんは、そうした様々な要因を長年の経験と培ってきた「勘」に頼って読み、日々の漁業をこなしているんですね。

で、トリトンの矛は、こうした漁師の「勘」をAIによってデータ化し、どこでどれくらい魚が捕れそうか予測してくれます。

(ちなみにトリトンの矛はギリシア神話に登場する海神の名前。ポセイドンの息子で、ベルニーニの『ネプチューンとトリトン』では三叉矛は持っておらず巻貝を吹いてます。)

図解してみる

図解してみるとこんな感じ。

(※図解は、ビジネスモデル2.0図鑑でお馴染みのチャーリーさん(@tetsurokondoh)が配布してくださっている「ビジネスモデル図解ツールキット」を使用させていただいております。)

漁業は漁師の「勘」で成り立っている

先ほども書いたとおり、漁業はベテラン漁師の「勘」で成立しているところが大きいです。

若手の漁師は、漁団に所属して師匠である漁師(漁労長であることが多い)の下につき、一緒に漁をしながら少しずつ経験を積んで自分の「勘」を鍛えていくわけですね。

ですが、はっきり言って非効率ですし、若手もなかなか育たず、世代交代がうまくいかないケースもあります。

漁業の安定的継続を考えると、もう少し効率的に「勘」を伝授できる方法が欲しいところ。

そこで、ベテラン漁師の「勘」を分解してみると、気候や海流など漁師が五感で感じ取っている様々な自然条件のほか、無意識的に認識した諸要素から生まれる”第六感”などの要素に分かれます。

(”第六感”は、「意識的に処理していない膨大な情報を脳が整理して生まれる判断である」とするのが現代科学の大勢です。)

こうした要素をAIで機械学習させれば、擬似的にベテラン漁師の「勘」を再現し、漁場の良し悪しを予測できるようになるはずです。

機械学習の肝は「操業日誌」

AIによる機械学習で漁場を予測するトリトンの矛。

大事なのは学習のもとになるデータの質と量です。

もとのデータが大量かつ良質なものであれば、機械学習による予測の精度は上がります。

その逆もまた然り、です。

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トリトンの矛は、漁師の長年の経験が詰まっている「操業日誌」を学習の基軸に置いています。

操業日誌は、漁師がそれぞれ個別に記録していことが通常で、いつどこでどんな条件で何の魚がどれくらい捕れたか等の情報が書かれています。

日誌の内容は、漁師が所属する漁団の外に開示されることはありません。

それぞれの漁師の虎の巻みたいなものですからね。

しかし、操業日誌にはその漁師の経験が詰まっています。

これをもとにして、その時の気象条件や海の状況を掛け合わせて機械学習に流せば、漁師が漁のときに感じ取っている要素はほぼ網羅できることになる。

そうすれば、漁師の「勘」をある程度は可視化できると考えられます。

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そこで操業日誌のデータを利用したいわけですが、虎の巻をどう提供してもらうかという部分がネックになります。

しかし、開発元であるオーシャンソリューションテクノロジーの親会社である佐世保航海測器社は1950年創業。

船舶事業において長年の実績を積んでいます。

そのため、ベテラン漁師とのパイプも太い。

このような信頼もあって、操業日誌をAIに利用することに漁労長が協力してくれたという背景があるみたいです。

閉鎖的な業界をパワープレイに頼らず積み上げてきた信頼で緩やかにイノベートしていくのは、一つの見本とすべき方法だと思いました。

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ちなみにトリトンの矛の開発には、Salesforceの導入コンサルなどをしているUSEが協力しています。

色々な人のポジティブな協力で新しいサービスができるのは見ていて気持ちがいいですねー。

法律面を整理してみる

では、簡単に法律面で気になる点を整理しておきたいと思います。

規約などは一般に公開されてなさそうなので、サービス的にフォローしておきたい部分にフォーカスをあてます。

操業日誌の秘密を保護する条項

もはや当たり前すぎてひな形が溢れかえっているNDA(秘密保持契約)。

新しいサービスを開発するベンチャーや企業の新規開発部門が、秘密情報の漏えいを防止するために使うなど、サービス提供者側の秘密情報保持に主眼が置かれることが多いかと思います。

今回は、企業側だけでなく、操業日誌の情報を提供している漁労長の方もケアしておく必要があります。

一方で、後述する内容と被ってきますが、漁師が入力する水揚げ量など、オーシャンソリューションテクノロジーが共有的に使いたい情報もあります。

こういう情報もNDAに入れてしまうと、後々トラブルになる可能性が大いにあります。

なので、どの情報は秘密にし、どの情報はオープンにするかを精査して条項に落とし込んでいく必要があります。

(そういえば、NDAのひな形って各事務所が持っているのは普通だと思うのですが、経産省も独自にひな形を出しているのを最近知りました。なんでも、NDAのひな形が世に溢れていて、当事者間で微妙な文言の調整に難航して非効率な場合が散見されるので、ガイドラインとして作ったそうな。この経産省ひな形の利用率(各企業でカスタマイズ済みのものも含む)ってどれくらいなのか、ちょっと気になります。)

今後のサービス展開を妄想してみる

そんなトリトンの矛ですが、現段階でベテラン漁師の8割くらいの漁獲量はキープできているとのこと。

一般的には、ベテラン漁師から若手漁師に引き継いだ場合、その船団の成績は半減すると言われています。トリトンの矛を使うと、ベテラン漁師を超えはしないものの、8割くらいの成績はキープできているという感触です。

DiGITALIST「ベテラン漁師のノウハウを若手が活用、「最適漁業」に挑戦」
https://project.nikkeibp.co.jp/atcldgl/business/032600116/

今後、どのような展開がされるか妄想していきます。

漁場の乱獲を防いで水産資源を守る

インタビューなどに書いてあるのですが、将来的には全国的にこのシステムを導入し、乱獲を防いで水産資源を守る方向で役立てていきたいとのこと。

ここで、追加で必要となるデータは、魚の市場価格やリアルタイムの総水揚げ量など、個々の漁団を超えたものになってきます。

こうしたデータを集積できれば、その時の漁獲量に応じた想定市場価格が算出できるので、取り過ぎ→供給過多→利益なくなるのマイナスの連鎖が起こるのを防ぐことができるわけです。

農林水産省のデータなどを見ると、すでに8割以上の水産資源が満限利用または過剰利用の状態にあるとのこと。

(※参考:http://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h22/pdf/h22_hakusyo5_2.pdf

問題の原因の一つが乱獲による資源の無駄遣いにあることからすると、ここに対応しうるトリトンの矛のシステムは大いに役立つと考えられます。

漁業は漁団同士のAI対決になる?

今後、様々な漁団がトリトンの矛を導入していった場合どうなるでしょうか。

トリトンの矛は、機械学習のもとになる操業日誌の情報を他の漁団と共有しません。

ということは、漁団それぞれの特徴をもったAIが独自に作られていくことになります。

そのため、漁団同士のAIでどちらがより精度の高い予測をできるかの勝負になると考えられますね。

AI使ってんのに共有知じゃないんかい、とも思えますが、Deep Learningで騒ぎになった将棋や囲碁のAIソフトは色々あるじゃないですか。

トリトンの矛も、あくまで各漁団の漁労長の勘をAI化して世代交代をやりやすくするものですから、特色が出て然るべきです。

共有知になったら漁業は純粋な早い者勝ちゲームに成り果ててしまうので、今のバランスを保ったまま展開していくのが正しい方向でしょうね。

一次産業の発展を加速させ未来を守るシステムの普及を

一次産業はITが入っていきにくい分野と認識されていましたが、ここのところ農業や漁業にITを活用する事例が増えてきています。

一次産業が成り立っていかないと、生産者はもちろん、消費者である私たちも困ってしまうので、ITの力でイノベーションを起こしていくサービスは経済界全体で盛り上げていく姿勢でいて欲しいなと思っています。

見てきたとおり、トリトンの矛は、水産業全体の保護・発展と、個々の生産者(事業者)の利益保護のバランスをうまくとれるサービスになっているので、サービス開発と普及の加速を願うばかりです。

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