おまたせしました。
Libraの連載も今回がラストです。
法律面について整理した前回の記事はこちら。
第1回と第2回はそれぞれこちらです。
それでは、最終回はLibraのサービス展開について妄想して考えていきたいと思います。
短期:発展途上国でのサービス開始
まず、2020年に予定されているLibraのサービス開始。
全世界に20億のアクティブユーザーを持っているFacebookですから、Libraも最終的にはグローバルに展開させるのは簡単に予想できます。
Libraが提供する機能は
・メッセンジャーやSNSでLibraを送金できる
・UberやLyft、eBayなどでの売上をLibraで受け取れる
・様々なECサイトや提携サービスでLibraによる支払いができる
・デビットカードに直接Libraをチャージして国際ブランドで決済できる
あたりを予想しています。

特に、VISAやMasterを巻き込んだのは最後のデビットカードを提供するため。
アメリカではQR決済よりもカード決済のほうが主流で、その中でもデビットカードが好んで使われます。
したがって、LibraがCalibra等の専用ウォレットにQR決済機能をつけても普及するとは限らず、カード決済を巻き込んだ形でなければ危ういんですね。
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では、Libraはそのスタートとしてどんな国でサービス提供されるのか。
Libraの公式発表前からメディアでは「インドやそれと似た状況の国からスタートするだろう」と予想されていました。
私もほぼ同意見でした。
なぜインドなのか

FacebookがLibraの目標として掲げているのは2つで、
・自分の銀行口座を持てない人の銀行になること
・低手数料の送金システムの提供
こうした問題は発展途上国でより深刻になっているので、Libraの目標にはかなっていることになります。
また、現金に対する不安を抱えているのも、こうした発展途上国が中心です。
仮想通貨を使ったほうが安心できるということをユーザーが認識すれば、Libraは爆発的に広がっていく可能性があります。
こうした特性をインドが備えているから、という話なんですが、これだけだとアジア・アフリカ諸国でもあてはまりそうです。
強いのは、インドはFacebookユーザーがアメリカを抜いて1位だということ。
その数、2.6億人。
参考: https://www.statista.com/statistics/268136/top-15-countries-based-on-number-of-facebook-users/
(Leading countries based on number of Facebook users as of April 2019 (in millions))
そして、同じくFacebook社が提供するメッセンジャーアプリのWhatsAppは、インド人の9割以上が利用しているとも言われています。
WhatsAppにはLinePayのような個人間送金が備わっているので、これをLibraに変えてやればOKということ。
インドでのスタートを阻害する要因
しかし、インドでのスタートが危ぶまれるニュースが入ってきました。
インド国内ではブロックチェーンを使った通貨の取引が禁止されているので、Libraも使えないのではないか、という話。
ただ、同記事では、クローズドなP2Pシステムで運用されるならOKかも、なんてことも書いてあります。
「ブロックチェーンを使った通貨」がどこまでを指すのかわからないのですが、Libraは厳密に考えると、いわゆるブロックチェーンではないんですね。
データ構造的には、ユーザーの最新状態をマークルツリーに記録・更新するだけで履歴を保存するわけではないので、「データをまとめて、それぞれを数珠つなぎにする」というブロックチェーンの構造とは異なります。
加えて、Libra協会に所属する特定のバリデーターが管理する構造(パーミッション型といいます)を捨てない限り、記事の内容に従っても「クローズドなP2Pシステム」と言えそうです。
しかしながら、インドでは仮想通貨の取引を全面的に禁止する法案が提出されていることもあり、まだまだ先行きは不透明です。
そのため、インドではなくブラジルやアルゼンチンなど南アメリカはあり得るなと考えています。
中期:アメリカや日本などでの本格的な導入

テスト導入を終えたあとは、アメリカや日本などに導入して本格的なサービス普及をはかると考えられます。
その頃には、UberやLyft、eBay、Stripeなどでの売上をLibraで受け取ることが安定的にできるようになっており、様々なECサイトの決済をLibraで直接でき、実店舗ではLibraをデビットカードにチャージして国際ブランドで決済できるなど、上述したLibraの機能はおおむね実装を完了しているでしょう。
アメリカや日本は先進国の中でも仮想通貨への規制が比較的緩い国です。
日本での法規制については、前回の記事で検討しました。
Libraが決済通貨としてのポジションを確立できれば、その後の展開も含めてかなり面白いことになるので、先進国かつ決済通貨になれそうな国でのサービス展開はLibraにとって必須事項です。
BaaSとして様々なサービスがLibraに接続する
ここで強力なのは、LibraがBaaSであることです。
BaaSはBlockchain as a Serviceのことで、企業が簡単にブロックチェーン技術を導入できるサービスのことを意味します。
Libraにはこの機能も備わっています。
BaaSの先駆けは、Ethereumという仮想通貨プロジェクトです。
界隈では、「LibraってEthereumのパクりじゃん」という声も多いところ。
取引の手数料として支払われる「GAS」という概念もそのまま引っ張ってきてますし。
独自のプログラミング言語「Move」を導入しているなど細かいところは違うのですが、達成しようとしてる目標はEthereumとあんまり変わりません。
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しかし、Ethereumと決定的に違うのは、Libraは価格が比較的安定する(はず)という点なんです。
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企業がブロックチェーンを扱う時に、その手数料は通貨の価格に依存するので、乱高下のある現在の仮想通貨は使い勝手が悪いのです。
これはEthereumでも同じ。
Libraはそういう心配が無いので、だいたいどれくらいの手数料がかかるか計算がつきます。
そうすると、ブロックチェーン技術を手軽に導入したい企業は続々とLibraに接続してきます。
現在の協会メンバーを見ると、「なんだ、Libraを使えるって言っても、直接使えるのはUberとかSpotifyくらいじゃん」と言われそうですが、先進国でLibraの導入がされる頃には状況が一変しているでしょう。
(ちなみに、地域通貨のプロジェクトが日本でも少しずつ出てきていますが、EthereumベースでやっているならLibraに乗り換え(る準備をしておい)たほうがいいと思います。地域企業・商店や住民の利便性を考えると、現時点ではLibraの方が将来性ありと予想しています。)
グローバルなTポイント?

が、ここまでだとまだ真に革新的とは言えないかもしれません。
「グローバルなTポイントでしょ」と言われれば、まあ確かにそうですねと言うしかありません。
法定通貨との相互交換が可能なだけで、購買データが取れたり決済に利用できたりという点はTポイントとあんまり変わりません。
長期:他の仮想通貨と接続し独自の経済圏を作る
すごいのはここからです。
本当に妄想の領域になってしまいますが、将来的なLibraの姿を想像すると、他の仮想通貨と接続して、独自のLibra経済圏を作ることが考えられます。
他の仮想通貨と接続するってなに??
現在は、例えばBitcoinをEthereumに変えようとすると、仲介役である取引所にBTC/ETHの取引を依頼して、Ethereumに交換してもらう必要がありますね。
これを、仲介役なしで実現できるようになります(クロスチェーンスワップといいます)。
そうすると、ブロックチェーン間でのコミュニケーションが取れるようになります。
(これを実現できる技術の1つとして期待されているのがLightning Network。詳細は省略。)
例えば、自動車保険契約の場面を考えてみましょう。
Libraで保険の決済をするときに、 ユーザーの信用情報(免許証の資格情報、事故歴、運転適性など)を保管している他のブロックチェーン上から取り寄せて、場合によってはディスカウントする、なんてことができるようになるんです。
様々なブロックチェーンがLibraに集まる
さらに、Libraが決済通貨としての機能を持っているなら、ブロックチェーンでサービスを作る新興企業は、よりLibraに接続したいと考えるでしょう(LibraをBaaSとして使うか否かにかかわらず)。
どういうことかというと、基本的にブロックチェーンは仮想通貨とセットで考えると参入障壁が高いんですね。
それは主に、各国が敷く法規制において、です。
基本的に仮想通貨を決済として使うことに対しては規制の方向性が強い。
決済に使えないのならその通貨を使う人は出てこず、開発する意味もない。
ただし、各国の主な流れとしては、すでにある経済圏に直接の影響を与えなければ「商品」としての仮想通貨の取扱いを認める方向にあるので、ブロックチェーンを純粋に技術として使用するなら法規制にひっかからず使うことができます。
で、Libraと接続できるとなると、「自分たちのブロックチェーンで展開する仮想通貨が直接決済に使えなくても、決済通貨のLibraと交換できるならそれでいいじゃん」と考えられるようになります。
結果として、Libraを中心とした独自の経済圏が法定通貨の枠を超えて生まれることになるわけです。
法定通貨が役割を終える?
ここまで来ると、Libraで直接行う取引も数を増し、法定通貨に交換して取引する意義も薄れてきます。
もはや法定通貨の存在は必須ではなくなり、Libraがあれば生活できるようになる。
価値の交換を国依存で行う必要がなくなり、真のトークンエコノミーが完成します。
(そのとき、Libraはリザーブを主な仮想通貨にまるっと交換するかもしれません。)
それでも残るLibraの問題点

ここまで書いてきたのはLibraの理想かつ期待する姿です。
が、そううまく行きそうにないのがLibraなんだな。
パブリック型へ移行できるか
現在、LibraはLibra協会のメンバーによって管理される形をとっています。
LibraのHPを見ると、5年でバリデートを一般にも開放し、パブリック型に移行すると宣言しています。
なぜパブリック型への移行が重要かというと、上述のようにLibra経済圏が完成しても、それを特定の企業が管理していたら、国が通貨発行権限を独占する形で人々を管理しているのとそう変わらないからなんですね。
結局は管理している企業のさじ加減ひとつで、Libraの価値が急に乱高下したり誰かに独占されてしまうかもしれません。
真のトークンエコノミーを実現し、Libraが決済通貨になろうとするのであれば、パブリック型への移行は必須なのです。
が、この技術は今のところ発見できていないと思われます。
P2Pのような非集中型ネットワークで情報を処理するのは非常に手間なのです。
データベース型で一極集中で管理したほうが、データ転送のコストがかからないので。
こうしたP2Pの弱点を克服する技術が色々と研究開発されていますが、最適解は見つけられていないのが現状です。
いずれ克服されるテーマだとは思いますが、それがいつになるかは未だ不透明です。
国の規制を超えられるか
Libraが目指しているのは脱・法定通貨依存です。
そうすると国から見れば単純に敵です。
国は法定通貨を使って経済を回してくれないと収入が入ってこないからです。
この辺のロビイングは非常にやっかいです。
というかすでに問題があちこちで発生しています。
例えばこれ。
https://coin-otaku.com/topic/category/news/43036
Facebookの本国アメリカでこの状況ですからね…
てっきり水面下で根回ししているのかと思ったら、どうやらしていないようで。
八百長なんじゃないかと疑いたくなるレベルです。
Libraはこうした国との交渉を本当に綿密にやっていく必要があります。
仮想通貨のステージを1つ押し上げる可能性を秘めている
ここまで見てきて、Libraに対する総観は、「乗り越えるべき問題は多いけれど、Libraなら乗り越えられそうだし、実現できたら革命レベル」という感じです。
少なくとも今まで仮想通貨に対して多くの人が抱いていたであろうネガティブイメージを払拭するチャンスですし、仮想通貨・ブロックチェーン業界全体を押し上げるプロジェクトとして期待できます。
いわゆる仮想通貨バブルが終わって、しっかりしたブロックチェーンプロジェクトが期待されていた中、私たちの身近に浸透しうるプロジェクトとして今後も注視していきたいと思います。
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